フィリピン人雇用のポイント~MWO(旧:POLO)申請の基礎知識~

フィリピン人を日本に招聘(呼び寄せ)して雇用する場合、日本のビザ(在留資格)取得と併せて、MWO(旧:POLO)やDMW(旧:POEA)といったフィリピンの政府機関に対して所定の手続き(申請)を行う必要があります。これはフィリピン独自のルールになりまして、フィリピン人の採用を検討する企業はこの独自の制度を理解しておく必要があります。今回はフィリピン政府関連機関や、フィリピン人雇用独自のルールについて解説します。

フィリピン政府機関について

フィリピンでは国民の約10%が海外で働いていることから、海外で働くフィリピン人労働者の管理・監督を行うため、フィリピン独自の雇用ルールが設けられています。まずはMWO(旧:POLO)申請に関係するフィリピンの政府機関について見ていきましょう

DMW(移住労働者省)

DMW(移住労働者省/Department of Migrant Workers)とは、海外で働くフィリピン人の権利保護や福利厚生の促進などを目的に設立されたフィリピンの政府機関です。2022年秋にフィリピン政府が省庁編成を実施し、POEAを含む7つの省庁や組織がDMWに一本化されました。

MWO(移住労働者事務所)

MWO(移住労働者事務所/Migrant Workers Office/旧:POLO)とは、世界各国にあるDMW(旧:POEA)の出先機関のことです。日本国内には2か所のMWO拠点があります。MWOはDMWの出先機関として、日本で就労するフィリピン人の権利を守る活動をしています。そのため、日本企業がフィリピン人を雇用する際、基本的にMWOへの申請が必要になります

日本国内のMWO(旧:POLO)拠点
① MWO東京(旧:POLO東京) 東京都港区六本木5-15-5 フィリピン大使館 移住労働者事務所
② MWO大阪(旧:POLO大阪) 大阪府中央区淡路町4-3-5 アーバンセンター御堂筋7階 在大阪フィリピン共和国総領事館 移住労働者事務所

MWOはこれまでPOLOという名称でしたが、DMW(Department of Migration Workers/移民労働者省)の新設に伴いPOLO東京/POLO大阪の名称がMWO東京/MWO大阪に変更となりました。所在地に変更はありません。

省庁再編前のフィリピン政府機関

2022年秋にフィリピン政府が省庁編成を実施し、POEAを含む7つの省庁や組織がDMWに一本化されましたが、省庁再編前の各機関について、名称やその役割について簡単にご紹介いたします。

DOLE(フィリピン労働雇用省 )

DOLE(フィリピン労働雇用省 /Department Of Labor and Employment)は、フィリピン労働者の雇用の規制・監督を行う役割を担い、海外就労のフィリピン人の雇用問題をサポートする機関です。海外就労先でフィリピン人労働者が雇用主に対して問題を提示したい場合には、DOLEに対して一定の手続きを行い、解決のためのサポートを受けることができます。

DOLEは労働者の保護が主な職務とされています。外国の企業に雇用されているフィリピン人労働者に対して問題が発生した場合、労働者保護の観点から、企業に対して厳格な対応を求める機関になります。

POEA(フィリピン海外雇用庁)

POEA(フィリピン海外雇用庁/Philippine Overseas Employment Administration)はフィリピン人労働者の人権保護のために、人材を海外へ送り出す前に、就労先企業の審査を行っています。POEAはフィリピン現地にあり、フィリピン人が海外での就労を希望する場合、POEAの認定を受けた現地の送出機関(公認エージェント)を介して就職活動を行います。日本の企業がフィリピン現地からフィリピン人を直接雇用する場合、POEAの審査を通過していることが必要です。

POLO(フィリピン海外労働事務所)

POLO(フィリピン海外労働事務所/Philippines Overseas Labor Office)は、DOLEとPOEAの出先機関の役割を担います。POLOは海外各国に拠点があり、日本では駐日フィリピン大使館と在大阪フィリピン総領事館にその拠点があります。フィリピン人を雇用する企業がPOEAからの審査を受ける際にはPOLOに出向き、所定の手続きを行う必要があります。

MWO(旧:POLO)申請の目的

MWO(旧:POLO)申請の目的は、フィリピン人が海外で働くことができる証明である海外雇用許可証(OEC/Overseas Employment Certificate)を取得することです。フィリピン人はこの海外雇用許可証(OEC)がなければ海外で就労することはできません。また、この海外雇用許可証(OEC)を取得するためには、フィリピン人を雇用する海外企業の情報がDMW(移住労働者省/Department of Migrant Workers)に登録されている必要があるため、MWO申請を行い、DMWのシステムに雇用主情報の登録を行わなければなりません。

MWO(旧:POLO)申請のフロー

➡フィリピン人を雇用する際に必要となるMWO(旧:POLO)申請の大まかなフローについて見ていきましょう。

フィリピン在住のフィリピン人雇用の場合
DMWの公式Webサイトから送出機関(エージェント)を選定し契約する
※一般的には送出機関(エージェント)との間で、Recruitment Agreement(人材の募集及び雇用に関する権利義務を定めた募集取決の契約)を締結します。
申請書類、求人票、雇用契約書のひな形等を作成しMWOに提出する
MWOの書類審査(審査期間:約2週間)
MWOの審査通過後、MWOの承認印が押印された提出書類が返送される
MWOで担当者との面接
※原則として受入企業の代表者が面接を受ける必要があり、第三者による代理出席は不可とされます。面接は基本的に英語で行われます。
MWOでの面接通過後、許可書類(Original MWO-Verified Document)が返送される
受入企業は返送された許可書類一式を送出機関(エージェント)に提出
送出機関(エージェント)を通してDMWシステムへ情報が登録され、DMWの認証印が押印された書類が返送される
DMWシステムへの情報反映後、送出機関(エージェント)がフィリピン人材の募集を開始
日本の受入企業が候補者を選定し面接を行う(現地もしくはオンライン)
内定者決定後、日本の受入企業が出入国在留管理庁へ在留資格認定証明書(COE/Certificate of Eligibility)交付申請を行う
交付された在留資格認定証明書の原本を内定者であるフィリピン人に送付
フィリピン人本人が現地の日本大使館にてビザ(査証)発給の申請を行う
フィリピン人本人が送出機関(エージェント)に申請し、出国前オリエンテーションや健康診断を受診する
フィリピン人本人(※)が海外雇用許可証(OEC)の発行を申請する
(※)在留資格の種類によってはフィリピンの送出機関経由でOEC発行申請を行う場合もあります。
海外雇用許可証(OEC)発行後、フィリピン本人が出国(出国時にはOECを提示)
フィリピン人本人が日本に入国、在留資格認定証明書とパスポートを提示、入国審査後に在留カードが発行される(※)
(※)上陸港が成田、羽田、中部、関西、新千歳、広島、福岡以外の場合、在留カードは後日交付となります。
日本の受入企業にて就労開始

※海外雇用許可証(OEC)の有効期間は60日になります。また、雇用するフィリピン人が一時帰国する際には再入国許可申請だけではなくOEC免除申請も併せて行います。

日本に在留しているフィリピン人雇用の場合

➡すでに日本に在留して就労しているフィリピン人を雇用する場合、フィリピン人が許可を受けている在留資格によって、MWOに申請し海外雇用許可証(OEC)の取得が必要な場合と不要な場合があります。

  在留資格の種類
① MWO申請が必要な在留資格 ➡高度専門職/技術・人文知識・国際業務/特定技能/介護/技能/技能実習/特定活動(就労が許可されたものに限る)
② MWO申請が不要な在留資格 ➡企業内転勤 /永住者/定住者/日本人の配偶者等(身分系在留資格)/特定活動(就労が許可されていないもの)

➡いわゆる身分系の在留資格(永住/定住/日本人の配偶者等/永住者の配偶者等)が許可された日本在住のフィリピン人は、MWO申請を行う必要はありません。しかし、身分系の在留資格や留学ビザから、就労系の在留資格に変更する場合は、MWO申請が必要になります。たとえば留学ビザや技能実習ビザから技術・人文知識・国際業務ビザに在留資格変更許可申請を行う場合などは、MWO申請も必要になります。

◆フィリピン人材が在留資格変更を伴う転職をした場合の注意点◆
➡転職先企業のもと、在留資格変更が許可され、MWO申請を行ったフィリピン人材は、フィリピンに一時帰国した場合、再来日する際、DMWに海外雇用許可証(OEC)の発行を申請します。海外雇用許可証(OEC)は、出国時にフィリピンの空港で提示する証明書で、これがなければ海外で就労するフィリピン人はフィリピンを出国できません。仮に転職先企業がMWO申請を行っておらず、有効な海外雇用許可証(OEC)を出国港で提示できない場合、フィリピンからの出国することができなくなるため注意が必要です

フィリピン人を直接雇用する場合

➡前述の通り、フィリピン人の雇用は原則としてエージェントを介するのが原則です。しかし、例外的に直接雇用が認められるケースがあります。まず、政府高官などフィリピン人政府よりあらかじめ認定を受けて日本で就労するケースになります。それに加えて、個別に直接雇用許可の申請を行い、DMW(旧:POEA)の認定するエージェントを介さず、フィリピン人を雇用することが認められるケースがあります。個別の直接雇用が許可される条件は以下のような条件があります。

フィリピン人の直接雇用が許可される条件
日本での受入先が会社(法人)であること
※日本での受入先が個人事業主である場合、直接雇用はできません。また、中小企業の場合、1年以上継続して事業を経営していることが必要になります。
高度技術・専門職の業種・職種であること
DMWの規定する最低限度以上の報酬その他手当を含む福利厚生が保証されていること
フィリピン人の学歴が大学卒業以上であり、職務に関連性する十分な専門知識実務経験を有すること

※上記の条件を満たすことで、フィリピン人労働者の直接雇用が認められる可能性はありますが、基本的にはフィリピンの現地エージェントを介した採用が推奨されており、特別な事情がなければ通常の方法で採用するのが一般的になります

最後に(まとめ)

MWO申請はフィリピン人本人が申請を行いますが、実務上はフィリピン人を受け入れる日本企業が申請することがほとんどです。MWO申請は行政書士を含む第三者(フィリピン人本人・受入企業以外の者)の関与が禁止されていますが、当事務所において、受入企業が行うMWO申請手続きがスムーズに行えるよう申請書類作成のアドバイス等の対応は可能です。

書類作成のコンサルティングはもちろん、万が一修正が必要となった場合も適切なサポートを行わせていただきます。フィリピン人雇用を検討されている企業様で、ご不明な点があればぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。

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