解雇・雇止めと就労ビザ
就労ビザの許可を受けて働く外国人の方々は、その就労ビザで認められた職種のお仕事に就いている必要があります。もし就労ビザで認められた活動を継続して3か月(一部の高度専門職にあっては6か月)以上行っていない場合、正当な理由がない場合を除き、就労ビザが取り消されてしまったり、就労ビザの更新が認められないことにもなりかねません。
そのため、日本で働く外国人の方が、会社都合で解雇や雇止めされてしまった場合、適切な届出や手続きが必要になります。今回はそれら届出や手続きについて、詳しく解説していきます。
目次
解雇・雇止めの場合の特例
就労ビザが許可されて日本で働く外国人の方が、解雇や雇止めにあって離職した場合、離職時に在留資格が剥奪されることはありませんが、原則、現在の就労ビザで日本に滞在することを希望する場合、3ヶ月以内に次の仕事を見つける必要があります。それ以上の期間、仕事をしていない状況がつづくと、就労ビザが取り消されてしまう可能性もあります。
➡ただし、新型コロナウィルス感染症拡大の影響による雇用状況悪化のため、会社の倒産や事業縮小等により、自己都合ではない理由で解雇・雇止め、または自宅待機を命じられた場合には、次のような取り扱いが特例として認められています(令和5年6月1日時点)。
就労ビザの有効期間内の場合
就労ビザが許可され日本に在留する方で、就労ビザの有効期間内であり、しばらくは更新期限を迎えない方について、以下の取り扱いにより引き続き現在の就労ビザのままで在留することが認められます。
① 雇用先から解雇または雇止めの通知を受けた方で、引き続き就職活動を希望する方 |
② 雇用先から自宅待機を命じられた方で、復職を希望する方 |
③ 雇用先から勤務日数・勤務時間の短縮を命じられた方で、引き続き勤務を希望する方 |
④ その他 ①ないし③に準ずる方 |
上記①~④に該当する方は、「資格外活動許可」を受けることで、アルバイトなどを行うことも可能性です。この資格外活動許可を受けることで、1週間について28時間以内で、単純作業を含む、包括的な就労活動を行なうことができるようになります。「資格外活動許可」を申請する際には、雇用先の会社都合により現在の状況にあることを証明する文書(退職時証明等)を添付します。資格外活動許可の期間は、許可の日から6か月または現在の就労ビザの在留期間満了日のいずれか早い日となります。
※退職時等の証明について(労働基準法22条)
・労働者が退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金または退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)について請求した場合においては、会社(使用者)は、遅滞なくこれを交付しなければなりません。
転職先が決まらず就労ビザの有効期間満了を迎えてしまう場合
解雇・雇止めされた後、就職活動を継続しても、新しい仕事が決まらずに就労ビザの有効期限を迎えてしまう場合もあります。そのような場合、就労ビザの有効期間満了後も、継続して就職活動を行なうことを希望する場合には、就職活動を目的とする「特定活動(6か月)」へ在留資格を変更することが認められます。
➡「特定活動」への在留資格変更許可申請を行う際には、雇用先企業の都合により現在の状況にあることを証明する書類(退職時証明等)や、現在の就労ビザの有効期間が満了する前から就職活動を行なっていたことが確認できる書類を提出します。
会社から待機や勤務時間等の短縮を命じられた外国人の方で、就労ビザの有効期間が満了する時点で、残りの待機期間が1か月を超えない場合や、勤務時間の短縮により就業している外国人の方で、その勤務時間が待機時間を上回っている方は、現在許可されている就労ビザのままで就労ビザの更新が可能になります。この場合、原則として「1年間」の在留期間が許可されます。
会社都合による解雇や雇止めではなく、自己都合で退職した場合、就職活動のための(告示外)特定活動への変更は認められません。現在許可されている就労ビザの有効期間内に、新たな転職先を見つけて在留期間の更新許可申請を行なう必要があります。
留意すべき届出や手続き
外国人の方が解雇や雇止めされ、異国の地で突然仕事を失うということは、日本人以上に切実な問題です。これからの生活をどうするかで頭がいっぱいになってしまうのも当然です。ただし、このようなときこそ、必要の届出や手続きがいくつもあります。これらの届出を行わない場合、その後の就労ビザの更新申請において、希望した在留期間よりも短い期間の許可になるなど、不利益が生じる場合がありますので、しっかりと確実に届出や手続きを行ないましょう。
契約機関に関する届出
「契約機関に関する届出」とは、就労ビザが許可されて日本で日本で働いている外国人の方が、以下の項目に変更があった際に必要となる届出になります。この手続きはあくまで「届出」であって、「申請」ではないため審査はなく、必要事項を出入国在留管理庁に伝えることが目的になります。
➡この届出に関しては、解雇や雇止め等による会社都合退職、自己都合退職どちらの場合も必要になります。また、離職後、新たな就職先が決まり、入社する際には「新たな契約機関と契約を結んだとき」に該当するため、この場合も入社日から14日以内に「契約機関に関する届出」を行うことが義務づけられています。
(1)契約機関に関する届出が必要な場合
① 契約機関の名称変更・所在地変更・消滅の場合 |
② 契約機関との契約を終了した場合 |
③ 新たな契約機関との啓江訳を締結した場合 |
(2)届出の時期
・上記①~③の事由が発生した日から14日以内に届出を行います。
(3)届出の方法
① インターネットによる届出(出入国在留管理庁電子届出システムを利用) |
② 管轄の地方出入国在留管理局に直接提出 |
③ 郵送での届出 ※郵送での届出の場合、最寄りの地方出入国在留管理局ではなく、東京出入国在留管理局在留調査部門届出受付担当宛に郵送します。 |
➡「契約機関に関する届出」について、外国人ご本人だけではなく、受入企業の人事担当者の中にも、この届出の存在を知らない方が多くいらっしゃいます。この届出を行っていないために、その後の在留資格更新許可申請において、希望した在留期間より短い期間の許可となってしまう場合など、不利益が生じることがあります。外国人ご本人だけではなく、受入企業の人事担当者の方も、この届出がしっかりと行われているかどうか確認する必要があります。
告示外特定活動(就職活動)への在留資格変更許可申請
解雇や雇止めされ、会社都合で離職した場合、すぐに新しい就職先が決まるとは限りません。転職先が決まらず、就労ビザの有効期間満了を迎えてしまう場合、「就職活動のための告示外特定活動」への在留資格変更が認められます。詳しくは前述しておりますので、こちらをご参照ください。
ハローワークでの基本手当の受給手続き
外国人の方も雇用保険に加入していた期間が原則として12か月以上あれば、離職後に基本手当(失業保険)の支給を受けることが可能です。
ハローワークでの手続きは基本的に日本人と同じです。前職の会社から発行される「離職票」を持参して、ハローワークで「求職の申込み」を行ないます。その後、「雇用保険受給者説明会」への参加を経て、待期期間の後、失業状態にあると認め得られれば、基本手当(失業保険)が支給されます。
➡離職後、特定活動(就職活動)への在留資格変更などをせず、ハローワークへ「求職の申込み」をした場合で、「技能」や「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザの有効期間満了を迎えてしまうような場合、「失業中」であるため、「技能」や「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザで認められた活動を行なっていないと判断され、当該就労ビザの更新申請をしても許可を受けれません。
資格外活動許可申請
前述のとおり、解雇や雇止め等の会社都合で離職した外国人の方は、資格外活動許可申請を行ない、許可を受ければ、就職活動をしながら週28時間までアルバイトをすることができます。注意すべき点としては、解雇・雇止めではなく、会社から待機や勤務時間短縮を命じられた外国人の方が、この資格外活動許可申請を行なう場合には、会社(受入機関)から資格外活動を行なうことについて同意を得たうえで、その旨を申請時に申し出る必要があります。
在留資格変更許可申請(転職後)
解雇や雇止めで離職後、告示外特定活動(就職活動)へ就労ビザを変更していた場合、新しい就職先が決まった場合は、速やかに在留資格の変更許可申請をしなければならないのは当然なのですが、転職前と同じ職種のお仕事に就く場合でも、在留資格変更許可申請が必要な場合と不要な場合とがあります。
(1)同一職種への転職後、在留資格変更許可申請が必要な場合
① 離職後に告示外特定活動(就職活動)へ就労ビザを変更していた場合 |
② 「高度専門職」、「特定技能」、「特定活動46号」の就労ビザの場合 ➡上記3つの就労ビザに関しては、パスポートに貼付される「指定書」に勤務先の会社名や会社所在地が記載されます。指定書は就労ビザと合わせて変更されるもので、転職によって会社名も変更されることになるため、就労ビザ自体の変更許可申請を行なう必要があります。 |
(2)同一職種への転職後、在留資格変更許可申請が不要な場合
① 原則として、「高度専門職」、「特定技能」、「特定活動46号」以外の就労ビザの場合 ➡「高度専門職」、「特定技能」、「特定活動46号」以外の就労ビザが許可されている場合で、前職と同一職種への転職の場合には、原則として、在留資格変更許可申請は必要ありません。 |
・転職の際に義務付けられた申請手続きではありませんが、同一職種への転職の場合、就労資格証明書交付申請を行なうことをおすすめします。「就労資格証明書」とは、転職後に新たに就くお仕事が、現在の就労ビザで認められた職種であるかどうかのお墨付きを得るための申請になります。
雇止め法理と外国人労働者
期間の定めのある労働契約は、会社が契約更新を拒否したとき、契約期間の満了により当然に終了します。ただし、この「雇止め」は、会社との対比で、どうしても弱い立場に置かれる労働者を保護する観点から、一定の場合に「無効」とされます。この雇止めが無効となる場合のルールを「雇止め法理」といい、その「雇止め法理」が法律として定められたのが「労働契約法19条」になります。
➡初めて就労ビザが許可されて日本で働く外国人の方々の労働契約は、期間の定めのある有期労働契約であることが多く、その契約の実態から、雇止め法理のもと、労働契約法19条で保護される有期労働契約に該当しない場合がほとんどです。外国人労働者の方々に対して行う「雇止め」は、日本人労働者に対して行う「雇止め」よりもハードルは「低い」です。
令和5年5月に新型コロナウィルスの感染症法上の位置づけが5類に移行し、コロナ禍前の日常が少しづつ戻りつつありますが、まだまだ雇用状況がコロナ前の状況に戻ったとはいえず、就労ビザの有効期間内に「解雇」や「雇止め」を言い渡される外国人の方からの相談を受けることがあります。
外国人労働者の方々にとって、異国の地で突然「解雇」や「雇止め」を言い渡されることは、我々が思う以上に切実な問題です。大変な時期になりますが、まずは足元の必要な届出や手続きをしっかりと行なうことも非常に大切です。また、離職時の届出や手続きだけではなく、会社からの「解雇」や「雇止め」の通知についても、少しでも疑問に思うことがあれば、しっかりとお話を伺い、最適なアドバイスをさせていただきます。ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。