短期在留外国人の脱退一時金請求について
日本の国民年金や厚生年金保険には、国籍の要件がありません。つまり、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の方であれば、外国人の方であっても国民年金の被保険者となりますし、厚生年金保険の適用事業所に常時に使用される70歳未満の方であれば、外国人の方であっても厚生年金保険の被保険者(当然被保険者)となります。
➡ただし、外国人の方が、国民年金や厚生年金保険の被保険者となったとしても、一生涯を日本で過ごす方はごく稀です。最終的には母国へ帰国する方がほとんどです。そうなると、せっかく納付してきた保険料が掛け捨てと同じになってしまいます。
そのような外国人の方々のため、保険料の掛け捨て防止策として設けられているのが脱退一時金制度になります。今回はこの脱退一時金制度の概要や、請求の際の注意点について解説します。
目次
脱退一時金制度の概要
脱退一時金とは、日本国籍を有しない外国人の方が日本から帰国する際に、老齢年金の受給資格期間が10年に満たない場合、すでに納付済みである国民年金や厚生年金保険の保険料の一部を返還してもらえる制度になります。まずは、国民年金、厚生年金保険それぞれの脱退一時金制度について、支給要件や金額について詳しく見ていきましょう。
国民年金の脱退一時金
(1)支給要件
・国民年金の脱退一時金の支給要件は以下のとおりです。
■国民年金の脱退一時金支給要件■ |
① 日本国籍を有していないこと |
② 公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でないこと |
③ 保険料納付済期間等の月数の合計(※)が6か月以上あること (➡国民年金に加入していても、保険料が未納となっている期間は要件に該当しません。) |
④ 老齢年金の受給資格期間(厚生年金保険加入期間等を合算して10年間)を満たしていないこと |
⑤ 障害基礎年金などの年金を受ける権利を有したことがないこと |
⑥ 日本国内に住所を有していないこと |
⑦ 最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していないこと (※資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していないこと。) |
(※)保険料納付済期間等の月数の合計とは
➡脱退一時金を請求する日の前日において、請求する日の属する月の前月までの第1号被保険者(任意加入被保険者も含みます)としての被保険者期間における、次の①~④の期間を合計した月数をいいます。
① 保険料納付済期間の月数 |
② 保険料4分の1免除期間の月数×4分の3 |
③ 保険料半額免除期間の月数×2分の1 |
④ 保険料4分の3免除期間の月数×4分の1 |
(2)国民年金の脱退一時金の支給額
・国民年金の脱退一時金の支給額は、最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額と保険料納付済期間等の月数に応じて計算します。なお、2021年(令和3年)4月より、最後に保険料を納付した月が2021年(令和3年)4月以降の方については、計算に用いる月数の上限が36月(3年)から60月(5年)となりました。
国民年金の脱退一時金の支給額については、日本年金機構のホームページから、加入期間をあてはめて計算してください。なお、国民年金の脱退一時金は、国民年金第1号被保険者としての加入期間についてのみ支払われます。
➡日本年金機構ホームページ:国民年金の脱退一時金額
厚生年金保険の脱退一時金
(1)支給要件
・厚生年金保険の脱退一時金の支給要件は以下のとおりです。基本的に国民年金の脱退一時金の支給要件と同じ内容です。
■厚生年金保険の脱退一時金支給要件■ |
① 日本国籍を有していないこと |
② 公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でないこと |
③ 保険料納付済期間等の月数の合計(※)が6か月以上あること (➡国民年金に加入していても、保険料が未納となっている期間は要件に該当しません。) |
④ 老齢年金の受給資格期間(厚生年金保険加入期間等を合算して10年間)を満たしていないこと |
⑤ 障害基礎年金などの年金を受ける権利を有したことがないこと |
⑥ 日本国内に住所を有していないこと |
⑦ 最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していないこと (※資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していないこと。) |
(※)保険料納付済期間等の月数の合計の算出方法については、国民年金と同様になります。
(2)厚生年金保険の脱退一時金の支給額
・厚生年金保険の脱退一時金の支給額については、以下の日本年金機構ホームページを参照ください。なお、2021年(令和3年)4月より、最終月(厚生年金保険の被保険者の資格を喪失した日の属する月の前月)が2021年(令和3年)4月以降の方については、計算に用いる月数の上限が36月(3年)から60月(5年)となりました。
➡日本年金機構ホームページ:厚生年金保険の脱退一時金の支給額
脱退一時金の請求手続き
脱退一時金は、日本国籍を有しない方が、国民年金、厚生年金保険の被保険者資格を喪失して日本を出国した場合に請求することができます。ただし、日本を出国後2年以内に請求する必要があります。
脱退一時金の請求に必要な書類
・脱退一時金を請求する際に必要となる書類は次のとおりです。
■書類名■ | ■確認事項■ |
① 脱退一時金請求書 (※国民年金・厚生年金保険いずれの脱退一時金も同じ請求書を使用) |
・脱退一時金の請求書は外国語と日本語が併記された様式となっており、14の外国語に対応しています。脱退一時金請求書は以下の日本年金機構ホームページからダウンロードできます。 ➡参考リンク:短期在留外国人の脱退一時金請求書(日本年金機構ホームページ) |
② パスポートの写し (※氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページの写し) |
・ご本人からの請求であることの確認 |
③ 日本国内に住所を有しないことが確認できる書類 (※住民票の除票の写しやパスポートの出国日が確認できるページの写し等) |
・日本から出国していることの確認 ➡ただし、帰国前に住所地の市区町村に転出届を提出した場合、住民票の消除情報により請求者が請求時点で、日本国内に住所を有しないことを確認できるため、提出は不要となります。 |
④ 国民年金手帳または基礎年金番号が確認できるその他の書類 | ・年金の加入期間の確認 ➡基礎年金番号通知書でも確認は可能です。 |
⑤ 受取先金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号および請求者本人の口座名義であることが確認できる書類 (※銀行が発行した証明書等または①の脱退一時金請求書中の「銀行の口座証明印」の欄に銀行の証明でも可) |
・受取可能な金融機関であることおよび請求者本人名義の口座であることの確認 ➡日本国内の金融機関で受け取る場合は、口座名義がカタカナで登録されていることが必要です。 |
⑥ 委任状 (※代理人が請求手続きを行う場合) |
・受任者からの請求手続きであることの確認 ➡「委任状」の様式は自由ですが、日本年金機構ホームページに掲載している様式を使用することをお勧めします。 参考リンク:委任状様式および記入例(日本年金機構ホームページ) |
脱退一時金請求書の提出先
・脱退一時金の請求者(ご本人または代理人)が、脱退一時金請求書および添付書類を日本年金機構充てに提出します。
① 提出先 | ・日本年金機構本部または各共済組合等 ※加入していた制度およびその期間により提出先が異なります。 |
② 提出方法 | ・郵送または電子申請 |
③ 提出期限 | ・最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以内 ※ただし、資格喪失した日に日本国内に住所がある場合は、その後、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以内 |
■出国前の脱退一時金の請求手続きについて■
➡出国前に脱退一時金の請求手続きを行うことも可能です。その場合、お住まいの市区町村に住民票の転出届を提出したうえで、転出届に記載された転出(予定)日以降に、脱退一時金請求書および必要書類が日本年金機構等に到着するよう郵送します。
脱退一時金の請求に関する注意事項
脱退一時金を請求して支給を受けると、請求前のすべての期間が年金の加入期間でなくなります。脱退一時金を請求するかどうかは、将来、日本の老齢年金を受け取る可能性などを考えた上で慎重に検討する必要があります。脱退一時金を請求するにあたり、注意すべき点としては以下のような点が挙げられます。
(1)老齢年金の受給資格期間が10年以上ある場合
・老齢年金の受給資格期間が10年以上ある場合は、将来に日本の老齢年金として受け取ることができますので、脱退一時金の支給を受けることができません。
(2)社会保障協定と関係
・日本と年金通算の協定(社会保障協定)を結んでいる国の年金加入期間のある外国人の方は、一定の要件のもと年金加入期間を通算して、日本および協定相手国の年金を受け取ることができる場合があります。そのため、社会保障協定によって年金加入期間の通算が可能となっている外国人の方については、脱退一時金を受け取るのか、日本での年金加入期間を通算して、将来年金として受給するのかを、支給額を含め慎重に見極めることが重要です。
➡参考リンク:日本年金機構ホームページ:社会保障協定について
(3)出国前に脱退一時金を請求する場合
・日本年金機構等が請求書を受理した日に、住所がまだ日本にある場合には、脱退一時金は請求できません。そのため、住所地の市区町村に転出届を提出した後に、脱退一時金の請求を行う必要があります。なお、出国前に日本国内から請求書を提出する場合は、請求書を住民票の転出(予定)日以降に日本年金機構等に提出します。郵送等で手続きをする場合には、請求書が転出(予定)日以降に日本年金機構等に到達するように送付する必要があります。
(4)再入国許可/みなし再入国許可を受けて出国する場合
① 市区町村に転出届を提出したうえで、再入国許可・みなし再入国許可を受けて出国する場合 | ➡脱退一時金を請求することが可能です。この場合、転出日の翌日(国民年金の資格喪失日)から2年間が脱退一時金の請求可能期間となります。 |
② 市区町村に転出届を提出せずに再入国許可・みなし再入国許可を受けて出国した場合 | ➡再入国許可の有効期間が経過するまでの間は国民年金の被保険者とされるため、脱退一時金は請求できません。 |
※なお、最終的に再入国許可、またはみなし再入国許可の有効期限日までに再入国しなかった場合は、再入国許可の有効期間(みなし再入国許可期間)が経過した日が国民年金の被保険者資格の喪失日になるため、その日から2年間が脱退一時金の請求可能期間となります。
■再入国許可・みなし再入国許可について■
再入国許可 | ➡再入国許可とは、在留資格が許可されて在留する外国人の方で、一時的に出国し再び日本に入国しようとする場合に、入国手続を簡略化するため、出国に先立って与えられる許可になります。再入国許可には、1回限り有効のものと、有効期間内であれば何回も使用できるものの2種類があり、その有効期間は、現在許可されている在留期間の範囲内で、5年間(特別永住者の方は6年間)を最長として決定されます。 |
みなし再入国許可 | ➡みなし再入国許可とは、在留資格が許可されて在留する外国人の方で、有効な旅券を所持している方が、出国の日から1年以内に再入国する場合には、原則として通常の再入国許可の取得を不要とする制度になります。ただし、「3月」以下の在留期間の方、および「短期滞在」の在留資格をもって在留する方は対象となりません。 |
(5)国民年金と厚生年金保険の両方に加入期間がある場合
・国民年金と厚生年金保険の両制度の加入期間は合算されません。脱退一時金の支給額はそれぞれの加入期間に基づいて計算されます。たとえば、国民年金保険料の納付済期間が3月、厚生年金保険の被保険者期間が3月のみの場合、合計すると6月になりますが、国民年金と厚生年金保険の期間の合算は行われないため、脱退一時金を請求することはできません。なお、国民年金の脱退一時金は、国民年金第1号被保険者としての加入期間についてのみ支払われます。
(6)所得税の控除について
・脱退一時金は、国民年金の場合、支給時に所得税が控除されませんが、厚生年金保険の脱退一時金の場合、予め所得税(20.42%)が源泉徴収された額が支払われます。この所得税控除は、後に帰国した外国人が住んでいた住所地の税務署に申告することで還付を受けることができます。
➡したがって、源泉徴収控除額の還付を受けたい外国人の方は、帰国前に住所地を管轄する税務署に納税管理人の届出書を提出し、自身の帰国後に還付手続きを代理してもらう納税管理人(日本に住所を有する日本人・外国人であって、その他条件・資格はなし)を決めておきます。なお、この納税管理人を指名せずに帰国した場合は、所得税の還付申告時に納税管理人の届出書を同時に提出することも可能です。
退職時ではなく入社時に説明を
はじめて外国人を雇用する際、社会保険加入について外国人従業員に理解してもらえないといった相談を受けることがあります。外国人の方が、日本の社会保険へ加入したくないとする理由としては、手取りの給与額が少なくなるということだけではなく、将来的に母国に帰国する場合、支払ってきた保険料が掛け捨てになることを懸念している場合がほとんどです。
➡そのような場合、外国人従業員の方に脱退一時金について事前に説明を行うことで、社会保険への加入についてご理解いただける場合が多いです。脱退一時金については、14の外国語に対応した請求書が用意されていますので、外国人従業員の方が退職・帰国される際ではなく、入社時に丁寧に制度の趣旨や概要を説明することが大切ではないでしょうか。
脱退一時金請求手続代行について
当事務所にて就労ビザの申請(招聘・変更許可・更新許可等)を受任した外国人の方に対しては、脱退一時金請求手続代行を無償で承ります。なお、入管手続きごとの、脱退一時金請求手続代行の無償サポートへの対応につましては下表をご参照願います。
【主な入管手続き】 | 【脱退一時金請求手続代行の無料サポート】 |
(a)在留資格認定証明書交付申請(外国人の招聘) | 〇 |
(b)在留資格変更許可申請 | 〇 |
(c) 在留資格更新許可申請 | 〇 |
(d)在留資格取得許可申請 | 〇 |
(e)永住許可申請 | 〇 |
(f)再入国許可申請 | ー |
(g)資格外活動許可申請 | ー |
(h)就労資格証明書交付申請 | ー |
(i)短期滞在書類作成 | ー |
(※)脱退一時金請求手続代行の無償サポートの場合も、源泉所得税の還付金送金の際の手数料(送金手数料/受取手数料/中継銀行手数料/為替手数料等)についてはお客様(受取人様)のご負担となりますので、還付金の外国送金時の手数料分だけ受取金額が少なくなります。予めご了承いただきますようお願いいたします。
なお、当事務所にて就労ビザの申請(招聘・変更許可・更新許可等)を受任していないお客様からの脱退一時金請求手続代行のご依頼につきましては、下表のとおりサービス報酬額を頂戴させていただきます。あらかじめご了承いただきますようお願いいたします。
※以下の報酬額はすべて税別料金になります。
【脱退一時金請求手続代行の内容】 | 【報酬額】 |
・脱退一時金の請求手続きの代行 ・納税管理人業務(所得税の源泉徴収税額の還付請求) ・転出届の届出の代行(※) |
➡①または②のいずれか高い金額 ① 脱退一時金(100%支給額)の5%(上限60,000円) ② 40,000円(基本料金) |
(※)出国時に、旧住所地の市区町村宛に転出届の届出が行われていない場合、日本国内に住所を有すると判断されるため、請求を行っても脱退一時金が支給されない場合があります。すでに出国済みで、日本国内に住所を有しないことが確認できる書類等の添付が難しい場合、転出届の届出を代行いたします。なお、転出届の届出の代行には、お客様からの委任状が必要になります
脱退一時金請求手続代行のサービス報酬額のお支払いは、脱退一時金(厚生年金保険)の源泉所得税分の還付金(脱退一時金支給額の20.42%)をお客様に送金する際に控除させていただきます。また、源泉所得税の還付金送金の際の手数料(送金手数料/受取手数料/中継銀行手数料/為替手数料等)についてはお客様(受取人様)のご負担となりますので、予めご了承いただきますようお願いいたします。なお、国民年金の脱退一時金のみの請求手続代行のサービス報酬額につきましては、事前にお支払いいただく必要があります。あらかじめご了承いただきますようお願いいたします。
脱退一時金を請求して支給を受けると、請求前のすべての期間が年金の加入期間でなくなります。脱退一時金を請求するかどうかは、将来、日本の老齢年金を受け取る可能性などを考えた上で慎重に検討する必要があります。
また、脱退一時金(厚生年金保険)の源泉所得税額の還付請求については、出国後の手続きとなるため、煩わしい部分もございます。脱退一時金の請求に関しまして、ご不明な点があればぜひ当事務所までお問い合わせください。